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【論文紹介】変形性膝関節症へのカテーテル治療

[2025.04.14]

切らずに治す!膝の痛みに対する最新カテーテル治療「動脈塞栓術(GAE)」の効果と安全性

こんにちは!福岡ペインケアクリニックの坂井です。今回は、変形性膝関節症(膝OA)による膝の痛みに対して、メスを使わない新しい治療法「膝動脈塞栓術(GAE)」をご紹介します。最新の研究結果をもとに、GAEの仕組みや効果、安全性についてわかりやすく解説します。

膝動脈塞栓術(GAE)とは?世界中で大注目!?

日本では経カテーテル微細動脈塞栓術(TAME)と言われていますが、海外での膝動脈の塞栓術はGAE(Genicular Artery Embolization)という略語で広まっています。膝の痛みの原因となる異常な血管へカテーテルを用いて塞栓物質を投与する治療です。

矢印の『もやもや』が炎症血管

黒矢印の白い部位が炎症がある部位

変形性ひざ関節症(OA)は単なる「すり減り」ではなく、「血管新生・炎症・神経過敏」が関与する複雑な病態です。新生血管が炎症物質を運び、痛みの悪循環が続いているため、それを断ち切ることが重要です。

GAEは、この異常新生血管を遮断することで痛みを減らします。実はこれ、日本人である奥野祐次先生が発見して開発、世界に広めている治療法なんです!じゃあ日本でもっと広まっていて欲しいのですが、自費診療であることがネックなのか、新しい治療に躊躇する医療者も多いのか、知っている人は知っている。。という治療に留まっています。しかし確実にじわじわと広まっています。

新たな塞栓物質を認可されるまで日本は多くのステップを踏まなければなりません。とうとう2022年頃からアメリカ・ドイツをはじめ、日本より先に海外で保険診療として多くの治療がなされるようになりました。日本でも数年後の保険収載を目指したさまざまな動きがあり、もし保険収載された暁には世界中と同じように日本中でもどんどんGAEがなされると思います。

奥野先生が総院長であるオクノクリニックに昨年まで在籍していたのですが、毎週のように海外からドクターが見学に来ており、日本でダントツ1番の海外ドクターの見学数を誇るクリニックであると思います。毎回私も海外ドクターに英語で説明し解説するのですが、英語が苦手な私は間違った情報を自国に持って帰らないように細心の注意を払う必要がありました。困った時は翻訳アプリをすぐに起動っ!最近の翻訳アプリは性能がよく非常に助かりました。。。私たちの低侵襲で痛みを減らす画期的なカテーテル治療をみて、海外のドクターたちはアメイジングッ!とよく言っていました。こうやって自国に最先端の治療を持ち帰って医療は世界に広まるのだなと身をもって知りました。

奥野先生と私が2024年ポルトガルのリスボンでの学会に参加した時の会食(1度はオクノクリニックに見学に来た方々がこんなにも!)

さて、その世界中で大注目の痛みを減らすカテーテル治療ですが、流れは下記になります。

治療の流れ

1.カテーテル挿入:局所麻酔下で足の付け根に針を刺し、細い管(カテーテル:直径1mm程度)を挿入します。

2.膝の動脈まで誘導:X線透視を見ながら、カテーテルを膝関節周囲の動脈まで進めます。

3.塞栓物質を注入:標的の動脈にカテーテルが入ったら、数時間で溶ける微小な塞栓物質粒子を流し込みます。

4.血流を遮断:粒子が一時的に詰まることで、炎症を起こしている過剰な血流が遮断されます。

5.痛みの軽減:血流が減ると炎症血管が減り、炎症細胞や異常神経が減ることで徐々に痛みが和らぎます。施術は1時間程度で終わり、日帰りが可能です。

治療直後は炎症血管が減っています(右写真:論文より)

では、世界での膝OAへのカテーテル治療(GAE)の有効性と安全性はどのような報告があるのか紹介していきます。

最新の研究結果

米国の前向き試験:GAE施術1年後に痛みや機能が大きく改善。痛みのスコア(VAS)は治療前を10とすると3程度に下がり、WOMACスコア(膝の機能面のスコア)も約60%改善しました。

米国の小規模RCT:GAE群は偽処置群に比べて有意に痛みが軽減。具体的には、痛みの程度がGAE群では治療前より平均5ポイント以上改善しました。

・米国の2022年の論文:6ヶ月後の臨床効果(痛み軽減など)は80~86%で、軽~中等度OA(KLグレード1~3)で効果が高く、重度(KL4)では効果が限定的でした。その効果は24ヶ月程度以上は持続し、保存的治療(NSAIDs, ヒアルロン酸注射など)の使用頻度が大幅に減少しています。

複数の論文では、KL4(重度の変形)は痛みがぶりかえしていますが、それ以外は概ね痛みが半分以下になっています

日本の後ろ向き研究:GEA群は治療6ヶ月後で86.3%が治療成功(痛みのスコアが50%以上改善)と答えています。3年後、治療成功の状態である方は79.8%いました。

 

安全性と副作用

GAEは低侵襲であることから、身体への負担は比較的小さいと考えられます。今回ご紹介している論文でも重大な合併症は報告されておらず、副作用としては一過性の皮膚の変色や軽い出血などが報告されています。これらは軽度で一時的なもので、適切な対処により自然に消失しています。

 

膝の痛みが減るとQOLが上がる!

GAEは、切らずに膝の痛みを和らげる新しい選択肢として世界中で注目されています。特に、従来の保存療法では効果が不十分で、かといってまだ人工関節手術は早いといった患者さんにとって、GAEはリハビリや注射以外の第3の選択肢になり得る点は大きな魅力です。

膝OAの手術が予定される10人中、GAEにより半分が手術を回避して痛みが少ない日常生活を送れるならば、それはQOL向上や国の医療費抑制に繋がると確信しています。

今後、日本を含め世界各地でより大規模な研究や、従来治療との比較試験が進めば、GAEの真の有用性と適応患者の範囲が明確になるでしょう。膝の痛みに対する医療は日進月歩ですので、新しい情報にもアンテナを張りつつ、海外に負けないようにしたいと思います。

この痛みのカテーテル治療は数十年後には世界中で当たり前の治療となっていると確信しています。

日本の皆さんにもこの素晴らしい治療を多く届けられるように私たちも努力していきます。

 

おまけ

GAEは変形性ひざ関節症以外にも膝蓋腱炎や膝蓋下脂肪体炎などの膝の痛みにも有効です。また後日、変形性ひざ関節症以外のGAEについてもブログに載せいようと思います。

ポルトガルのリスボンで開催された、ヨーロッパ最大のカテーテル治療学会(CIRSE2024)で膝蓋腱炎へのGAEの成績を発表してきました

 

参考文献

1.Bagla S, et al. J Vasc Interv Radiol. 2020;31(7):1096-1102.

2.Padia SA, et al. JBJS Open Access. 2021;6(4):e21.00085.

3.Okuno Y, et al.J Vasc Interv Radiol. 2017;28(7):995–1002. doi: 10.1016/j.jvir.2017.02.033

4.Taslakian B, et al. Osteoarthritis Cartilage. 2023;5(2):100342.

5.Heller DB, et al. Geniculate Artery Embolization: Role in Knee Hemarthrosis and Osteoarthritis. RadioGraphics. 2022;42(1):289–301.doi:10.1148/rg.210159

 

この記事では、膝の痛みに対する新しい治療法「膝動脈塞栓術(GAE)」について、最新の研究結果をもとにわかりやすく解説しました。長引く痛みでお困りの方は、かかりつけ医や痛みの専門医、福岡ペインケアクリニックまでご相談ください。

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