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モヤモヤ血管治療のエビデンス

こんにちは、福岡ペインケアクリニック院長の坂井です。

今回は、「ぶっちゃけ、痛みの原因のモヤモヤ血管治療って本当に効くの?安全なの?エビデンスは?」という声に、お答えします

「モヤモヤ血管って聞いたことあるけど、本当に安全?」「効果って証明されているの?胡散臭いなあ」
そんな疑問は、当然のものです。実際のところ、私も最初はその疑問を持っていました。循環器内科医として狭い血管を広げるカテーテル治療を数多くしており、血管を詰めるのはダメ。という印象が強くあったからです。

しかし、この痛みの治療について知れば知るほど、不要な異常炎症新生血管(モヤモヤ血管)だけ減らせば炎症細胞や不要な神経が減っていき、正常な血管や組織には悪い影響は極端に少ないことがよくわかりました。

今回は、私の経験からだけではなく世界中で出ている論文を中心に、エビデンス(科学的根拠)を持って有効性と安全性について語ります。このページはモヤモヤ治療についてさらに詳しく知りたい方が読まれると思われますので、多少専門用語が多くなったり、かなり文量が多くなる予定です、ご了承ください。また言葉の詳しい説明や参考論文等はリンクをご参照ください。

※適宜このページは更新していく予定です。まずは国別の論文→疾患別の論文→治療実例について→総括の流れでこのページを作っていこうと思っています。

モヤモヤ血管の2つの治療法

まず、モヤモヤ血管治療には大きく二つの方法があり、一つは5分で終える動注治療、もう一つは痛みのカテーテル治療(「経カテーテル的微細血管塞栓術:TAME」や「膝動脈塞栓術:GAE」などと呼ばれます)があります。

これらの治療方法の目的はモヤモヤ血管だけを減らす薬剤を届けることです。違いは、動注治療は四肢末梢の痛み、カテーテル治療は全身の痛みにアプローチできます。

これらのモヤモヤ血管治療は、従来の治療では改善しなかった慢性の痛みに対して、新しい角度からアプローチする治療法として、国内外で注目を集めています。

 

モヤモヤ血管と痛みが減る原理

炎症が慢性化した部位には、異常な新生血管(モヤモヤ血管)が生まれます。これらは炎症物質を供給し続け、さらに痛みを感じやすくする「異常神経」の発生にも強く関与しています1)。急性炎症血管は組織修復に不可欠な血管ですが、通常は数週間で消失します。長引く痛みは、痛みを感じる神経も育ってしまっている不要な炎症血管が原因のことが多いです。

このモヤモヤ血管をエコーやMRI画像検査で確認し、カテーテルなどで塞栓(不要な血流を止める)することで、炎症細胞や異常興奮している不要な神経が減り、痛みの改善が得られるというのが本治療の基本的な考え方です。

海外でも続々と認められているモヤモヤ血管治療の有効性(国別)

アメリカ:膝の変形性関節症へのカテーテル治療が保険適用され急拡大

2024年:UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校) PMID: 39322180

変形性膝関節症の患者に対してカテーテル治療「膝動脈塞栓術(GAE)」を平均66.0歳の40名の膝に実施し2年間フォロー。

膝の痛み程度は55%改善、47.4%の膝が24ヶ月時点でWOMAC(膝の機能スコア)が50%以上減少

72.0%の膝が24ヶ月時点で持続的な臨床成功(痛み半分以下)を報告した。

47.4%の膝が24ヶ月時点で膝の機能スコアが50%以上改善

KL 2、KL 3、KL 4のOA患者における24ヶ月時点の成功率は、それぞれ57.1%(4/7)、47.1%(8/17)、42.9%(6/14)。

28.0%の膝は12月から24ヶ月の間に症状が再発した。一時的な穿刺部の内出血は報告されましたが重篤な合併症はありませんでした。

 

上の研究では、KL4の重度の変形の膝も含んでいるため、他の研究と比較し低い72%の膝の臨床成功となっていることと、永久塞栓物質を使っているため自然治癒性の一時的皮膚潰瘍 7 例、無症候性骨壊死 2 例が起きています。

※日本では一時的塞栓物質を用いており安全性と臨床成績は高く皮膚潰瘍や骨壊死の報告はありません。

有効性と安全性が高いとFDA(アメリカの厚生省のような部門)に認められ、2022年に保険適用開始(Medicare)され、アメリカ全土へ痛みのカテーテル治療が普及しています。

スタンフォード大学とシカゴ大学でも膝のカテーテル治療の研究が進行しており、2024年には年間4,000例以上の実施件数が報告されています。

ドイツ:2023年には保険診療に!全国的に全ての関節の痛みのカテーテル治療が急増

2023年〜:Heliosグループなどが保険診療として実施中

放射線科医Marcus Katoh教授が中心となり、肩・膝・腰・肘・足などへのカテーテル治療を実施。すでに1,000例以上の臨床実績あり

また、Charité病院(ベルリン)でも週15〜20件のカテーテル治療を実施されている(400例以上)

 イギリス:オックスフォード大学が主導する全国規模の臨床研究

2025年現在進行中:20以上の病院が参加する大規模臨床試験「GEKO試験」

無作為化二重盲検プラセボ対照試験:従来の標準的治療で効果がなかった変形性膝関節症の痛みがある216名に、カテーテル治療とプラセボ(偽の処置)を受けてもらい、患者さんもドクターもどっちのグループに分けられているかわからない状態で半年後と1年後の痛みの軽減や日常生活の変化をアンケートで確認し、観察中に副作用等がなかったかも調べられています。

オックスフォード大学の権威ある「Surgical Ground Round」で痛みのカテーテル治療を世界に広めている奥野祐次先生が2025年に講演実績もあり、イギリスでも今後広まっていくでしょう。

 韓国:アキレス腱やゴルフ肘の痛みに対するカテーテル治療で痛み大幅に改善

アキレス腱のモヤモヤ血管(論文より)

2023年:ソウル大学・建国大学で研究報告(PMID: 36216276

慢性アキレス腱炎の患者20名に対してカテーテル治療を実施。痛みスコアは6.9→1.6に改善(6ヶ月後)。臨床成功率(痛みスコア50%以上改善)は86%。副作用は軽微で、再発も少なかったと報告。

2022年:ソウル大学・建国大学で研究報告(PMID:34089076

ゴルフ肘の患者の14の肘に対してカテーテル治療を実施。痛みスコアは7.6→0.9に改善(6ヶ月後)し、1-3ヶ月後から大幅に減少していた。処置臨床成功(Quick-DASHスコアの70%を超える減少)は85.7%。

とてもいい成績ですね。韓国でもアキレス腱やテニス肘をはじめ、難治性の疼痛への新たな治療戦略としてカテーテル治療が注目されています。

 スペイン:五十肩と肩こりへのカテーテル治療で大幅な痛み改善

2021年:レオン大学病院グループの五十肩(肩関節周囲炎)の成績 (PMID: 33135118

(上)治療前、(下)治療後

肩関節周囲炎の患者20名を対象にカテーテル治療を実施。痛みスコアは8.0→0.5へ激減、可動域も著明に改善し約2年は効果継続している、重大な副作用ゼロ、短期回復可能。

これはかなり痛みが減っていますね。カテーテル治療は1週間前後から効果を自覚する方が多く、その効果は持続しているのは実臨床でも実感しています。

2021年:2次性肩こりの成績(PMID:33478903)

肩こり25名(中央値49歳。術後14名、外傷後11名)へカテーテル治療を実施。VAS(痛みスケール)は8⇨2へ大幅に改善し可動域も有意に改善した。

日本:奥野先生グループから発信される世界初の多くの論文

実はこの痛みのカテーテル治療は、日本人である奥野祐次先生が世界で初めて開発し、世界に広めています。

先ほどのスペインの肩こりの論文は2次性の肩こりの成績で良好な結果ですが、通常の肩こりにも効果があります。澁谷先生奥野先生らが発表した2020年にCVIRというヨーロッパでもっとも有名なカテーテル治療専門医学誌に掲載された肩こり首こりのカテーテル治療の論文では、42名の痛みの強さは治療する前は10段階のうち平均が8.6だったのが治療後半年経過した段階では3.9まで下がっており、その効果は長期的に持続しています。重大な合併症はなかったと報告されています。

多くの方が痛み止めの内服や湿布の使用頻度が減ったと答えています。マッサージや整体で一時的にしか痛みが減らない方、根本から肩こり首こりを減らしたい方がカテーテル治療に適しています。

 

...さて、ここで力尽きたので、また後日に日本の論文紹介の続きを書こうと思います。

 

様々な論文を適宜このページで更新していきます。

各疾患の有効性と安全性の論文、モヤモヤ血管治療の基礎研究、日本の論文など。。

お楽しみに!

ご質問等があればお気軽にお問い合わせください。

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