痛みの原因『モヤモヤ血管』とは?
モヤモヤ血管とは
事故や転倒などによって損傷を受けたり、毎日繰り返す動作によってストレス(負担)がかかることで炎症が起きた部位には、その修復の過程で「異常な炎症血管」が発生しており、この血管を血管造影画像で見ると霧がかったように”モヤモヤ”として見えるため「モヤモヤ血管」と呼ばれています。
この「モヤモヤ血管」は、多くの方が悩まれている五十肩や腰痛、膝の痛みなど、長引く痛みの部位に存在していることが様々な研究で確かめられており、全く珍しいものではありません。
なぜモヤモヤ血管が痛みの原因となるのか
基本ルールとして「人体は血管と神経が一緒に伸びる」ため「モヤモヤ血管」が発生すると「異常な神経」も発生。
さらに「モヤモヤ血管」は正常血管より脆く、炎症を起こす物質(サイトカインなど)が周りに漏れ出すため、炎症が長引いて異常神経が発達し痛みが持続してしまいます。
足底腱膜炎のモヤモヤ血管(▲▲)
通常であれば「モヤモヤ血管」が自然と消えいくことで痛みも消退しますが、「モヤモヤ血管」は40歳を過ぎた頃から消えにくくなるほか、若い方でもスポーツや仕事などで繰り返し負担がかかっている部位は「モヤモヤ血管」が消えずに残ってしまう場合があります。
この写真は足底腱膜炎(踵が痛い)の方の後脛骨動脈の血管造影です。
黒く太い線が動脈で、足底腱膜がモヤモヤと黒く染まっています。
これらが“新生異常血管(モヤモヤ血管)”であり、この異常血管の周りには異常神経が一緒に存在しているため、踵の痛みを感じてしまいます。
モヤモヤ血管の特徴 簡易チェック
2つ以上当てはまるとモヤモヤ血管の可能性が高いです。
※患者さんが受診を判断するための目安です
※詳しく調べるには超音波エコー検査やMRI検査が必要です
- 指で押してみると明らかに他の場所に比べて痛い場所がある(圧痛がある)
- じっとしていても痛みが続く
- 就寝前、就寝中の寝返りなども痛む
- 朝起きた時の動き出しが痛い
- 立ち上がるときや不意の動作などの動き出しが痛い
- 痛みの感じ方は、ズキズキ、ジンジン、チクチク、重く感じるなどの痛み
- 痛い場所が赤くなったり腫れることがある(腫れている)
- 天気によって痛みが変わったり、クーラーにあたると痛い
- お酒を飲んだ後に痛みが増す
- 激しく運動した後に痛みが増す
モヤモヤ血管の減らし方
モヤモヤ血管を減らすことで異常神経も減ることが様々な研究でわかってきています。
そこで、動脈内から“一時的塞栓物質”を用いてモヤモヤ血管を塞栓し減らすことで、痛みを軽減させる治療が可能になりました。
一時的塞栓物質(イミペネム・シラスタチン)について
痛みの血管内治療では、「イミペネム・シラスタチン(チエナム)」を痛みの部位に投与して「モヤモヤ血管」を減らすことで、痛み成分や異常神経を消失させて痛みを改善します。
「イミペネム・シラスタチン(チエナム)」は20年以上前から「抗生物質」として認可されている薬剤で、非常に溶けにくく、少量の液体と混ぜると「小さな粒子」になる性質をもっています。
この性質を利用して、「抗生物質」ではなく血管を詰める「塞栓物質」として痛みの部位に投与。新しくできた異常な血管は非常に細く、また「血管としての経験」が浅くて脆いため一時的に詰まるだけで血流の流れが悪くなり、ダメージを受け消失します。
正常な血管にもダメージを与えて「壊死」などが起きるのではないかと心配になりますが、生まれた時から存在している正常な血管は太くて血流速度も速いため、少し流れが滞ったとしても押し流されて再開通するので心配はいりません。
さらに、認可された抗生物質であることから体の組織に影響を与える可能性はとても低く、安全性の高い治療であることは世界中の多くの研究からもわかっています。(論文紹介は院長ブログをご参照ください)
また「痛みの血管内治療」は炎症血管の元を断つ治療のため、痛みの軽減効果が長期間に渡り持続します。もちろん痛みがぶり返しにくい身体作り(フィジカルや栄養面)の指導等にも当院は力を入れております。
モヤモヤ血管の治療方法
モヤモヤ血管を減らす治療方法は大きく2つあります。
① 動注治療(5分で終える)
採血の針より細いです
テニス肘やヘバーデン結節、母指CM関節症、足底腱膜炎、外反母趾などの痛みでお困りの方には動注治療が適しています。
これは手首や足首の動脈にとても細い注射針を用いて一時的塞栓物質を注入し、痛みの原因部位にできてしまう異常な血管(モヤモヤ血管)を減らす治療法です。
注入量や回数が少なくて済む治療で、動脈が浅いところにある場合に可能です。詳しくは動注治療説明ページへ。
② 日帰りカテーテル治療
カテーテル治療は、全身のモヤモヤ血管へ直接薬剤を投与することが可能な、日帰り治療です。足の付け根(鼡径部)や手首から、カテーテルという太さ0.6mmほどの「くだ」を血管の中に挿入してモヤモヤ血管のすぐ近くまで進め、一時的塞栓物質を直接投与します。全身麻酔は必要なく、挿入箇所の局所麻酔のみで行う30分〜1時間ほどの治療です。
カテーテル治療は肩や腰、膝など、全身の様々な部位の炎症へアプローチできます。詳しくは痛みのカテーテル治療説明ページへ。
これらの治療はオクノクリニックの奥野先生によって2014年に開発されたものです。
当院はオクノクリニックとライセンス契約を結び動注治療およびカテーテル治療を行なっております。
副作用・リスク
動注・カテーテル治療は比較的安全性が高い治療法ですが、以下のような副作用やリスクが考えられます。
① 針やカテーテル挿入部位の内出血(約4%)
② 造影剤や薬剤による蕁麻疹などのアレルギー反応(約2%)
③ 治療部位の一時的な疼痛や痺れ感の増加(約5%)
※いずれも数日から数週間で消退
※これまでに皮膚壊死や生命を脅かすような重大な副作用の報告はありません